法人化のタイミング
不動産賃貸業が成長し、所得や保有物件が増えてくると、「個人のまま続けるべきか、法人化すべきか」は重要な検討事項になります。法人化の効果は、単純な税率差だけでは判断できません。役員報酬の設定、将来の物件購入、売却予定、相続対策なども含め、総合的に検討することが大切です。
個人事業から法人化する主なメリット
1. 所得が増えるほど税率差が生じやすい
個人の所得税は、所得が増えるほど税率が高くなる累進課税です。住民税を含めると、所得水準によっては税負担が大きくなります。一方、法人には個人とは異なる税率体系が適用されます。そのため、不動産所得が一定水準を超えると、法人化によって税負担を抑えられる可能性があります。
ただし、法人には法人住民税の均等割や社会保険料、設立・維持費用などが生じるため、税率だけでなく実際の手取り額で比較する必要があります。
2. 役員報酬による所得分散ができる
法人から役員報酬を支給することで、法人の利益を圧縮しながら、個人側では給与所得控除を利用できる場合があります。また、実際に業務へ従事する家族へ適正な役員報酬を支給することで、所得を家族に分散できる可能性もあります。役員報酬は自由に変更できるものではないため、事業年度の開始時に利益見込みを踏まえて設計することが重要です。
3.減価償却費の計上額を調整できる
法個人の不動産所得では、原則として減価償却費を毎年計上しなければなりません。法人の場合は、税法上の限度額の範囲内で減価償却費の計上額を選択できます。そのため、利益や将来計画に合わせて計上時期を調整できる点がメリットです。
4.法人向けの保険を活用できる
法人が契約者となる生命保険では、保険の種類や契約内容、受取人などに応じて、支払保険料の全部または一部を損金に算入できる場合があります。個人の生命保険料控除とは仕組みが異なり、保障の確保、役員退職金の準備、将来の資金需要などを見据えた設計が可能です。
ただし、保険料がすべて損金になるとは限りません。解約返戻金や出口戦略を含めた検討が必要です。節税だけで終わらせない。法人保険を、会社の将来を支える経営・財務戦略の一つとしてご検討ください。
5.中小企業倒産防止共済を活用できる
加入要件を満たす法人は、中小企業倒産防止共済、いわゆるセーフティ共済を利用できます。
掛金は月額20万円、年間240万円、累計800万円まで積み立てることができ、原則として法人の損金に算入できます。なお、個人の不動産所得では、原則として掛金を必要経費にすることはできません。
6.社宅制度を利用できる
法人が契約者となる生命保険では、保険の種類や契約内容、受取人などに応じて、支払保険料の全部または一部を損金に算入できる場合があります。個人の生命保険料控除とは仕組みが異なり、保障の確保、役員退職金の準備、将来の資金需要などを見据えた設計が可能です。
ただし、保険料がすべて損金になるとは限りません。解約返戻金や出口戦略を含めた検討が必要です。節税だけで終わらせない。法人保険を、会社の将来を支える経営・財務戦略の一つとしてご検討ください。
7.出張手当や慶弔見舞金の制度を設けられる
法人では、出張旅費規程を整備することで、実態に応じた出張手当や日当を支給できます。適正な範囲の支給であれば、法人では経費となり、受け取る役員や従業員には原則として課税されません。
慶弔見舞金についても、規程に基づく社会通念上相当な金額であれば、福利厚生費として処理できる場合があります。
8.役員退職金を支給できる
法人は、役員の退任時に適正な役員退職金を支給できます。法人側では、適正な金額であれば損金に算入できます。受け取る個人側でも退職所得控除が適用され、原則として控除後の金額の2分の1が課税対象となります。
長期間にわたり不動産賃貸業を営む場合、将来の資金形成や事業承継に活用できる制度です。
9.欠損金を長期間繰り越せる
要件を満たす青色申告法人は、事業年度に生じた欠損金を原則として10年間繰り越すことができます。個人の青色申告における純損失の繰越期間は原則3年間であるため、長期的な利益調整という点では法人が有利になる場合があります。
10.短期譲渡所得の高い税率区分がない
個人が土地や建物を売却した場合、売却年の1月1日時点における所有期間が5年以下であれば、短期譲渡所得として長期譲渡所得より高い税率が適用されます。
法人には、個人のような短期譲渡所得と長期譲渡所得の税率区分はありません。譲渡益は、原則として法人の他の所得と合算して計算されます。
11.相続・事業承継の選択肢が広がる
法人が不動産を所有している場合、相続や贈与の対象となるのは、原則として不動産そのものではなく法人の株式です。株式を複数年にわたって後継者へ贈与するなど、段階的な承継を検討しやすくなります。
また、株主が変更されても法人が所有する不動産の名義は変わらないため、不動産そのものについて相続による所有権移転登記を行う必要はありません。
法人化を検討するタイミング
1.不動産所得が900万円前後を超えてきたとき
個人の課税所得が900万円を超えると、所得税率が上がる区分に入ります。そのため、不動産所得が900万円前後を超えてきた時期は、法人化を検討する一つの目安になります。
ただし、給与所得など他の所得、各種所得控除、家族構成、社会保険料、法人の維持費などによって結果は異なります。
「不動産所得が913万円を超えたら必ず法人が有利」というものではなく、個人と法人の手取り額をシミュレーションして判断することが重要です。
2.個人から法人へ売却する物件の所有期間が5年を超えたとき
個人所有の不動産を法人へ売却する場合、個人側には譲渡所得税が生じる可能性があります。
土地や建物は、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得となります。短期譲渡所得は税率が高いため、所有期間が5年を超えてから法人へ売却することが、一つの検討時期になります。
なお、法人への売却では、譲渡所得税だけでなく、登録免許税、不動産取得税、消費税、司法書士費用、融資条件なども確認する必要があります。
3.相続までの期間を十分に確保できるとき
個人から法人へ不動産を売却した後、短期間で相続が発生すると、法人株式の評価に不動産の時価が大きく反映される場合があります。
法人化を相続対策として活用する場合は、将来の相続時期や株式の移転計画も考慮し、できるだけ早い段階から検討することが大切です。
建物のみを法人へ売却する方法もあります
土地を含めて法人へ売却すると、売買金額や税金、登記費用などが高額になり、法人の資金負担が大きくなる場合があります。そのような場合には、土地を個人が所有したまま、建物だけを法人へ売却する方法も検討できます。法人が建物を取得すれば、その建物から生じる家賃収入は原則として法人に帰属します。法人は、その収入から役員報酬を支給するなど、法人化による各種制度を活用できるようになります。
一方、法人は個人所有の土地を利用することになるため、土地の使用条件を契約書で明確にし、個人へ適正な地代を支払います。契約内容などに応じて、法人と土地所有者の連名により「土地の無償返還に関する届出書」を税務署へ提出することも検討します。
地代は、固定資産税と都市計画税の一定倍率で機械的に決まるものではありません。土地の評価額、権利金の有無、契約内容、無償返還届出の適用関係などを踏まえ、個別に設定する必要があります。
法人化は、税金だけで判断しないことが大切です
法人化には多くのメリットがありますが、すべての不動産オーナーにとって有利になるとは限りません。法人住民税の均等割、社会保険への加入、決算・申告費用など、法人を維持するための負担も生じます。また、個人から法人へ不動産を移す際には、譲渡所得税や不動産取得税、登録免許税などが発生する可能性があります。
現在の所得だけでなく、今後の物件購入、修繕、借入金の返済、売却、相続まで見据え、個人のまま保有する場合と法人化した場合を複数年で比較することが重要です。
法人化を検討される際は、物件ごとの収支や将来計画を確認したうえで、税理士などの専門家へご相談ください。
※本稿は一般的な税務情報をまとめたものです。実際の税務上の取扱いは、契約内容、物件の状況、所得、家族構成などによって異なります。

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